誰もいない川辺に停車した車のエンジンを切り、音を失った空間に流したのは携帯に入れたドリカムのアルバム。
周りの景色はだんだん日暮を深くし、橋の上を流れる車のライトが光りながら流れていた。
会話をしなくても不自然でない心地良い空気に言葉はいらなかった。
私の代わりに運転席に座っていた彼は、遠くのヘッドライトの光を見つめていた。
私も彼が見つめているヘッドライトの光を見つめ、時折橋の上の車の光に目を奪われていた。
周りの景色がとっぷりと暮れるのを見計らうかのように突然、彼が助手席に座っていた私の膝に倒れこんできた。
『落ち着く…』
突然の膝枕に驚きながら、落ち着くという言葉に笑いそうになるのを堪える私。
自分の両手をどうすればいいのか迷いながらの時間。
しばらくの沈黙と、両腿から伝わる彼の体温と重み。
彼の甘えるような表情と行動に慣れてきた頃に、突然起きだした彼の顔が近付きキスを交わした。
彼との初めてのキスは私の車の助手席。
付き合いたいと思った人とのキス。
欲しいと望んだ人の唇。
柔らかい唇。
優しいキス。
彼の香水の香り。
重なった唇はお互いを求め合って離さなかった。
子宮がうずくキス。
キュンとなる身体。
左胸に触れてくる彼の右手。
私を放さない彼の左手。
彼の肩に背に絡ませる私の両腕。
白いシャツのボタンを慣れた手つきで外していくその指。
耳に首筋に流れる唇の感触。
ブラジャーのホックを外すそのタイミングに身体中が火照るのを感じた。
車内は彼の熱に、いや二人の燃えるような時間の流れに外の景色を遮るかのように結露した。
助手席のシートを倒された瞬間、ドラマチックなシチュエーションに酔いしれた。
肩から白いシャツをスルリと落とされる瞬間も、ブラジャーの肩紐を腕から抜かれる瞬間も何もかも思い描く理想を叶え続ける彼の動作。
汗ばんだ彼の白いシャツから伝わる熱。
黒いスカートを捲し上げられ下腹部に彼の手が入り込んだ時
「ダメだってば!」と思わず我に返る私。
拒む言葉にさらにエスカレートさを増す彼の指が刺激し続ける。
「ホント、ダメなんだってば…」
言葉を遮る彼の唇。
「マジでダメなんだって!」
彼の目が私を見つめる。
「生理なの。今日、ひどいから、血まみれになるってば…。」
「そうなの?」とキョトンとした彼の目。
上半身裸で急に薄暗い車内の中、急に我に返る二人。
滑稽(こっけい)過ぎるシチュエーション。
助手席下からウェットティッシュを取り出し、彼に何枚か渡す私は笑っていた。
「ごめんね。」
「じゃぁ、最後まで出来ないね。」と残念そうな彼。
それでも抱き合って、キスして、どこまでもどこまでも彼の熱は醒めず、私はそんな彼と状況に酔いしれた。
「口でならイカせてあげられる…」
本当に好きな相手とはどこまでも愛したいと思うのが女なのだと感じた瞬間。
今までの誰よりも愛しくて、彼の気持ちの良い事を突き止めたい衝動に駆られた。
小声で「ウマイ…」と呟く彼の言葉を聞き逃しはしなかった。
褒められると余計に気持ち良さを極限まで極めたくなる唇がここにある。
舌が動く。唇が動く。指が、掌が、彼の極限を待っている。
彼の分身は苦くなかった。
飲み込めてしまえるくらいの生暖かな体液が口の中に広がった。
「苦くない」
彼を口でイカせた私の第一声。
笑い合って、キスをして抱きしめ合って胸にうずくまった。
彼の素肌の胸はあまりにも心地良くて眠くなりそうな安堵感がそこに広がっていた。
「ねぇ、私のこと好き?」
「好きだよ…」の言葉は聞こえないくらい小さくて、その後すぐに
「お気に入り。黄菜子がお気に入り。」と優しく笑っている彼が言葉にした愛の言葉。
「ブックマーク!?」と突っ込んでしまった私に笑う彼。
助手席のシートに彼が座り、彼に背を向けるように座った私を抱きしめる彼。
「なんだか離れられないね…」
あまりにも身体が、肌が吸い付いていくような感覚。
「そろそろ、帰らなきゃね。」
吸い付いて離れにくくなったお互いの身体を懸命に離そうと努力しているような彼の言葉。
ヤバイくらい相性が良いのかもしれないと悟ってしまった時間。
でもまだ、最後を残したままの身体と身体。
そして結露した車は二人を駅まで乗せ、そしてキスを交わした二人を引き離した。
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